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自給的暮らしに向けての軌跡。
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うつせみ
蝉が脱皮する瞬間を見たいー。

それは全ての人間の憧れであり、願望である。(絶対そうである)

そして先週、そんな私の願いが遂に叶えられたのである!


夕方、洗濯物を取り込もうとした私がふと地面を見ると、蝉の幼虫が地面に引っくり返ってあっぷあっぷしていた。

キターーーーーーー!!!!

私はその幼虫を自分の指にしがみつかせて、急いで部屋に戻った。
台所の暖簾に乗せてやると、すぐさま天辺まで登ってゆき、ガスの熱気が熱かったのか暖簾から這い出て壁に捕まろうとしている。けれど壁はつるつるのベニヤ板、何とも脚をひっかけにくそうだ。

料理をしていてふと蝉を見ると、壁に格闘していた幼虫が居なくなっている。周りを探して見ると、窓辺に落ちてまたしてもあっぷあっぷしている。

こいつ大丈夫か??

私は少々呆れつつ、今度は壁にかけてあるエプロンに登らせてやった。幼虫はまたいそいそとエプロンの天辺まで登ってゆき、苦労して壁まで行って、そこで納得したのか動かなくなった。
多分荒野の中で妊婦が産気づいて、「どこでもいいから安全に横になれる場所!!」みたいな切迫したものがこの幼虫にもあるのだと思われる。




Johnが帰って来たので早速蝉の幼虫のことを報告し、直ぐにご飯を食べることにした。幼虫の背中は白くなっている。

おかずを温めてコップやらお箸を出し、テーブルにおかずを並べようとふと壁の幼虫を見た時であった。

「おわぁ!」

私は仰け反ってしまった。
不動だった幼虫が、数分の内にアクロバット体制になっていたからである。それはまるで壁からセルが生えているようであった。

蝉の一生の中で最も劇的で繊細な瞬間が、音もなく進行していた。
私は「BGMが要る!」と言ってiPhoneの中からぴったりな音楽を見つけ出した。それは『ふしぎの海のナディア』・最終回に流れた「明日へ」ってタイトルのBGMである (ものすごいぴったりであった)

幼虫は時々ぴくぴくっと動きながら、ゆっくりとイナバウアーを極めてゆく。一体支点と重点のバランスはどうなっているのか、かなり力学を無視しているかのようなポーズで動かなくなる。


本によると、このままの体制で15分程休むらしい。よくこんなポーズで休めるよなぁと思う。尊敬に値する背筋である。
果たしてまさに15分程でまた動き出した。

いつの間にか幼虫は起き上がって、お尻を引き抜こうとしている。ここでもコヤツの驚異的腹筋に関心していまう。
私など腹筋がなさ過ぎて、歌おうにも声を張り上げることができないレベルなのだ。もはや生命体としてどうかと思う。


幼虫はぴくぴくっと身体を震わしながら、渾身の力で殻からお尻を引き抜く。ヌルンという感じで細長いお尻が出てくる。
二人して、感動せずにはいられない。


ここまで来ると、もはや幼虫ではなく立派な蝉である。こやつもホッとしているに違いない。白い羽がゆっくりと伸び始める。体液が通る筋が鮮やかな緑色をしている。
今、ものすごい勢いで体液が通い始めているのだ。凄い事である。


幼虫の時に落下したりしたので、上手く脱皮できるか、羽根が均等に伸びるか不安だったが、無事左右美しく伸び切った。其の侭の姿勢で一晩かけて羽根を乾かす。その姿を見て、蝉って美しい、ってことに始めて気づいた。


「早回しではない感動があるな」
とJohnも嬉しそう。


翌日、蝉を逃がしてやった。
力強く飛んで行った。
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